日経BP監修 ITライフサイクルPRACTICE

第2回「IT投資をいかにマネジメントするか」

近年増加傾向にあるIT投資の判断は、経営戦略にとって大きな意味を持っている。その判断の際に指標となるのが、ROIである。ERPのように実績の多いシステムでのROI算定手法は確立されつつあるが、先端技術分野などについては難しい面もある。こうした分野ではリスクとチャンスを秤にかけた経営判断の比重が大きくなる。また、期待通りのITシステムを構築するためには、プロジェクトマネジメントの体制を整えておく必要がある。

ROI算出法の精度を高め
IT投資の的確な判断を

企業にとって、投資戦略は経営戦略の根幹である。投資の目的は大きく2つ。売上向上とコスト削減である。

そして、経営者が投資を判断する際にベースとなる指標がROIである。これは予測される利益を投資コストで割った値。ここで問題となるのは投資コストが分かっても、予測される利益が明確にはつかみにくいことである。IT投資も同様である。

IT投資の効果が見えにくいことから、従来、多くの企業は「前年並み」「前年プラス5%」といった前年度主義で投資額を決定してきた。

これでは、先端技術を積極的に取り入れて攻めのIT投資を行うことは難しい。また、セキュリティ、災害対策のためのIT投資などのように、難しい投資判断が求められるケースもある。自社が投資して他社が投資しない場合、どの程度のチャンスをつかむことができるのか。あるいは逆の場合のリスクも評価しなければならない。いずれにしても、想定されるシナリオは何通りもある。シナリオごとの実現確率と、それぞれの予想利益、予想リスクを総合的に把握する必要がある。

そこで、ROI算出法の精度を高めて、より効果の高いIT投資を選択的に実行しようとする企業も増えつつある。ERPやSCMなどのシステム構築事例はこれまで多数の蓄積があり、ITベンダー各社はその実績をベースにかなり信頼性の高いROIを提示できるようになっている。

かなり以前から、ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)に基づく分析手法も多用されるようになっている。これは主に間接業務における活動ごとのコストを算出し、それをもとにプロセスのムダを発見するための手法で、BPRを実施する際の指標にもなっている。ABC分析によってムダを取り除くIT投資の効果を数値化すれば、ROIの値は自動的に導き出せる。

経営戦略に基づく、IT投資による高いROIの実現

経営者はプロジェクトの
優先順位と目的を明確に

次にこのROIをベースにしつつ、様々な経営戦略上の意図を盛り込んだ上で、IT投資の優先順位を決定しなければならない。そこで、会社全体の視点からプロジェクト選定の優先順位づけを行うのが経営者の重要な役割である。

また、経営者はIT投資の目的を明確にした上で、プロジェクトマネージャーにそのマネジメントを指示しなければならない。目的が曖昧なままIT投資を進めた場合、ユーザー部門から「これでは業務ができない」と要求されるなど、プロジェクトマネージャーがユーザー部門やシステム設計会社と調整を進める中で、当初のプロジェクトの目的と違ったシステムが出来上り、そのまま不良債権化するケースも少なくない。

さらに、こうした手戻りが何度も発生するうちに、投資判断の前提だったはずの投資コストは膨張し、当初に想定したROIも反故同然となる。これでは、経営判断そのものが信頼を失いかねない。ITプロジェクトには失敗事例も多数報告されているだけに、プロジェクトのマネジメントは非常に大きな課題だといえる。

また、ROIを高める効果が期待される技術面についても、最近の動きを若干説明しておきたい。標準的なインターフェースを持つソフトウェアを汎用部品としてネットワークを通じて自由に使いこなすSOAと呼ばれる手法が急速に広がり始めている。SOAの特長は、税制などの制度変更や取引先の要求の変化、あるいはその他のビジネス環境変化があれば、一部の部品だけを取り替えて対応できること。

したがって、システムとしての柔軟性や拡張性に優れている。また、既存システムのソフトウェアを部品化することで、SOAの枠組みの中で再利用が可能になる。効率的なシステム構築が可能で、納期も短縮できるSOAの動向に今後も注意を払いたいものである。

中島 洋

執筆者: 中島 洋
1947年生まれ。東京大学大学院(倫理学)修士修了。73年日本経済新聞社入社。ハイテク分野、総合商社、企業経営問題などを担当した後、1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、『日経コンピュータ』、『日経パソコン』の創刊に参加。97年から2002年に慶応義塾大学教授(大学院政策・メディア研究科特別研究担当)。01年から04年に国際大学(グローコム)教授。現在、日経BP社編集委員、MM総研所長を兼務。